英語資格取得の十精神

© Michihiro Hirai  1998 – 2018

1. 登山家の精神(「そこに山があるからだ。」 − George Mallory)

2. コロンブスの精神(西へ西へとわき目もふらずに前進)

3.「ヤッタルデ!」の精神(金やんの精神)(プロ意識)

4. こだわりの精神(「こだわりのレミー」)

5. ニューラル・ネットワークの精神(反復練習)

6. 道場破りの精神(諸流派武者修行)

7. クロコダイル・ダンディの精神(one-upmanship)

8. 地雷原突破の精神(罠を見極める眼力)

9. 満点をめざす精神(完璧主義)

10. スパイラル学習の精神(多様な試験に挑戦することにより、言葉を多角的・多層的に習得)

 

 

1. 登山家の精神(「そこに山があるからだ。」 − George Mallory)

 

最近中高年の登山熱が盛んですが、一般に、何か目標を定めてそれに向かって邁進することは、山登りになぞらえることができるでしょう。語学の勉強も、ただ漫然とやるのではなく、短期なり長期なりの目標(例えば、次回の英検で準1級を取得しよう等)を作ってメリハリをつけた方が効果的であり、励みにもなると思います。この場合、自分の実力に合った目標を選ぶこと、目標の内容をよく把握する(例えば過去の試験問題を調べる)こと、そしてその為の準備を整えることが肝要です。

 

ところで現在、日本で実施されている英語系資格試験は約70種類もあります。語学能力と一口に言っても実際は、文法・語彙・読解・聴解・会話・発表・作文等の多数の要素が絡み合っており、また言葉を使用する場も、日常生活・旅行・学校・職場の日常業務・社交・ビジネス交渉・売込み・購買・通信・論文作成・マニュアル作成等々多岐に亘っていて、この両軸(能力と場)の組合せに対応して各種資格試験が存在しているわけです。この中で、実用英語検定(通称英検)の1級試験は、学校英語の総仕上げといった性格をもち、まずはこれを征服することが、他の資格試験(その中でも最上級)受験の要件と言えましょう。英検1級に合格しないようでは、他の資格試験の最上級(例えば国連英検特A級、BULATSテストレベル5)の合格も覚束ないでしょう。その意味で英検1級は、ヒマラヤ登山で言えばベースキャンプと位置づけられます。

 

イギリスの高名な登山家ジョージ・マロリー卿は、「貴方は何故、エベレストに登るのですか。」と聞かれて、「それがそこにあるからです。」(“Because it’s there!”)と答えたそうです。「あそこにこういう資格試験がある。」と聞いて、「取得したい!」という気持ちを起こすことから全てが始まります。また、各種の資格試験を制覇することによって、幅広い実力が身につくのです。皆さん、登山家の精神で頑張りましょう。

 

2.コロンブスの精神(西へ西へとわき目もふらずに前進)

 

1492年8月、コロンブスはスペインのパロス港(ウエルバ)を出発して一路西へ西へとひたすら航海し、アメリカ新大陸を発見しました。但しもともとの目的は、新大陸の発見ではなく、地球が丸いことを証明することにあったようです。球体なら、その表面を一つの方向に進めば元の場所に戻る筈であるという訳です。当時大西洋の彼方は[欧州人にとっては]全く未知の世界であり、それをちっぽけな木造帆船とローテクな航海術で乗り切るのは、想像を絶する冒険であったに違いありません。そこにあったのは、ただひたすら西へ進むという “1ビット” の情報と、どんな困難をも克服するという不屈の精神でした。

 

語学に限らず何か資格を取得したいと思ったら、まさにこの精神が肝要です。受けようか受けまいかとウジウジしていないで、先ず受験を申し込みましょう。申し込むことによって、後に引けないという状況に自らを追い込んでしまうのです。電子計算機の用語を使えば、”外部クロック” をセットしてしまうと言えましょう(内部クロックだけだと、ついつい自分に甘くなってだらけてしまいます)。一旦申し込んだら、受験料を無駄にしない、これから自分が勉強に割くエネルギーを無駄にしない、という意気込みで目標に向かって邁進する。そのためには、好きなゴルフやカラオケの回数を減らし、諸々の誘惑を断ち切って、試験準備を最優先にする。一つの目標(試験に合格するという “1ビット”)に向かってエネルギーを集中することが成功の秘訣です(それにしてもコロンブスの時代に比べると現代は、精神の集中を妨げる誘惑が多いですね)。そして、語学の場合は、一つの試験に失敗しても勉強しただけの効果はどこかに残るものです。

 

3.「ヤッタルデ!」の精神(金やんの精神)(プロ意識)

 

「ヤッタルデ!」の精神とは、一言でいえばプロ意識ということで、「金やん」こと金田正一元国鉄スワローズ(現ヤクルトスワローズ)投手の口癖からとったものです。1958年のプロ野球セ・リーグの開幕戦で金田投手は、鳴り物入りで巨人に入団したばかりの長嶋選手を、4打席連続三振に仕留めました。金田はその前年迄に7年連続20勝している天才投手、「六大学といったって、所詮はアマチュアじゃないか。俺はプロだ。プロがアマに負けてなるものか。今日はプロの実力を見せてやったんだ。」という趣旨のことを言いました。これぞプロの鑑です。

 

皆さん、会社に入って5年も6年も一つのことをしていれば、その道のプロでなければなりません。社員全員がプロになってこそ、会社が成り立つのです。語学も然り、日常業務で外国語に触れている人は、アマとは違う実力を養うべく邁進しましょう。そして実力の証明となる各種資格試験に挑戦しましょう。

 

4.こだわりの精神(「こだわりのレミー」)

 

長旅のつれづれに手にとる国際線の機内誌。ビジネスパーソン向け記事や一般旅行者向け紀行文に混じって目を楽しませてくれるのが、趣向を凝らした広告です。「こだわりのレミー」。この一言で読者を、コニャックの名品レミー・マルタン® へと誘ってくれます。些か個人的嗜好の話になり恐縮ですが、銘酒のみならずフランスの食卓は、フォアグラにしろセルベラ・トリュフにしろ、美食家(gourmet)をうならせる逸品料理に満ちています。フランス人が世界に冠たる料理を作れるのは、彼らが味にこだわるからです。その点、日本人も共通するものをもっています。改良に改良を重ねて美味しい米を創り出す。こだわりにこだわって良いものを追求する。まさにこのことが、他に抜きんでて一流になる原動力と言えましょう。

 

外国語の学習にも同じことが言えます。幾つかの似たような表現の使い分けを知らないと、実社会で失敗することがあります。例えば、顧客から何か頼まれて、(a) “We will do everything we can.” と言うのと、(b) “We will do our best.”と応えるのでは、相当な違いがあります。(a) は単に、努力してみます(結果は保証しません)というだけですが、(b) は約束に近くなります。また会話の最中、相手の言うことに相槌を打つのに、(a) “I see what you mean.” と (b) “I understand what you mean.” では、微妙な差異があります。(a) は単に、言語的に(又は論理として)判りましたというだけですが、(b) には、貴方に同意(又は同情)しますというニュアンスが加わります。デートの相手に、”I see.” “I see.” の連発では、「なんだか打ち解けない人」という印象を与えることになるかも。これからは大いにこだわって、”違いの判る男(女)”になりましょう。

 

因みに、英語の単語/表現の使い分けを解説した参考書を幾つか紹介します。

★『英語構文ニュアンス事典』

(田中実)(北星堂)

★『[日本語から引ける]英語類語使い分け辞典』

(現代英語研究会)

★『日本語で引く英語類語辞典』

(松本安弘・松本アイリン)(北星堂)

★『あなたの英語診断辞書』

(同上)(同上)

★『これを英語でなんと言う:日米慣用表現辞典』

(ケリー伊藤)(小学館)

 

5.ニューラル・ネットワークの精神(反復練習)

 

ディジタル衛星放送、パソコンそれにスマホと、ディジタルな形の情報処理を行うシステムが世の中を席捲しています。しかし、ディジタルが万能ではありません。何億年も前から、一部の原始動物を除く全ての動物は神経回路(ニューラル・ネットワーク)をもち、生きるのに必要な情報処理をしてきました。食べ物や仲間を認識する・獲物に向かって走る・敵から逃げるといったパターン認識や物理的運動は、全て神経回路があって可能でした。

 

神経回路の最大の特徴は、自己学習能力です。各々の神経細胞は、細胞体の周りの樹状突起で他の神経細胞からの電気信号を受信し、軸策という長い手の先端(シナプス)から他の神経細胞へ電気信号を送信します。非常に単純化して言うと、シナプス−樹状突起間の結合の度合いは信号が通る度に強くなって、それ以後ますます信号が通り易くなるという性質があります。何度も見た顔は瞬時に誰だか判るようになる、或いは何度も練習すると正確で速いパスを送れるようになるといった、パターン認識能力或いは運動能力の向上(自己学習)は、まさにこの性質のお陰です。漫画的に言うと、知っている人の数だけ、また、練習したスポーツの種類だけ、自分の頭又は体の中に神経回路が出来るということです。

 

この反復練習の原理はそのまま語学の習得にもあてはまります。テレビでは同じコマーシャルが繰り返されるので、学齢に満たない幼児でも、最初の画面がちらと出ただけで次に来るセリフを言うことが出来ます。同様に、同じ文章を何度も繰り返し聞かされればいやでも頭に入りますし、同じ文章を繰り返し喋っていれば、それが自然に(大脳の深部を使わず、意識にものぼらないような浅い所で)口をついて出るようになります。特にリスニングやスピーキングではこの効果は顕著です。リスニングやスピーキングで問題になるのは、アイディア(伝えられる情報/想念)と表現(単語、イディオム等)の間の対応(マッピング)をいかに速くかつ正確にとるかということです。例えば、「どこかで聞いたことがあるなあ」というアイディア(想念)と “This sounds familiar to me.” という英語での表現をつなぐ神経回路ができてしまえば、聴解(表現 → アイディア)もスピーキング(アイディア → 表現)も格段に速く正確になります。

 

会話能力の習得の点では、市販のオーディオ教材を丸暗記するのが、最も投資効果が高いと言えます。筆者は自らそれを実証しました。筆者は入社間もない頃、毎日起床後自宅を出るまでの間、リンガフォン® のドイツ語教材テープを1文聞いてはすぐ巻き戻し、また同じ文を聞く、家を出たらそれを口に出して言ってみる、間違っていたり自信がなかったりしたら帰宅してから聞き直す、間違いなく言えるようになったら次の文に進む、という単純至極なことを尺取虫のように繰り返し、9ヵ月かけて丸暗記しました。以来48年たった今(2018年)でも、忘れないように、3週間に一回歩きながら全50課を暗唱することを繰り返しています(これまさにDRAM−リフレッシュ型記憶素子−の原理)。お陰で、今でもドイツ語圏に旅行すると、日常会話は殆ど全てドイツ語で済ますことが出来ます。

 

どうですか、一念発起して幼児に戻り耳から繰り返し学習するのは。今なら、ウォ―クマン® (これも古くなってしまいました)や iPod® 等の携帯音楽プレーヤなる文明の利器がありますので、48年前よりは便利になっています。頭の中にいつの間にか外国語の神経回路が出来てくるでしょう。石のように固い意思を以ってすれば道は開けるのです(Where there is a will, there is a way.)。

 

6.道場破りの精神(諸流派武者修行)

 

中世の武芸者は、ある程度修行を積むと道場を出て、諸国を巡りさらに腕を磨きました。剣の道には、北辰一刀流、神道無念流、二天一流(宮本武蔵)等々、夫々特徴をもった沢山の流派があり、ある一つの流派の奥義を極めたとしても、それでそのまま他の流派の剣豪を倒せるとは限りません。その流派の長所弱点を研究し、どうすれば破れるか戦法を練る必要があります。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」と言います。そうやって他流の道場の門をたたき、師範に試合を申し込む。負ければ大怪我をしたり命を落としたりしかねません。その代わり勝てば気分爽快、看板を引っ剥がして意気揚々と引き揚げる。まさに弱肉強食、道場破りの世界です。

 

現在日本で英語の能力(資格)検定が、例えば英検(実用英語検定)、国連英検、ケンブリッジ英検、オックスフォード英検、TOEIC®、TOEFL®、工業英検、日商ビジネス英検、TEP、TOPEC、通訳案内業、BULATS等、約70種類(公開受験可能なもの。ただし、児童英検等の、受験対象としてもともと低いレベルを想定しているものを除きます)実施されています。これらの検定は各々独自の目的と対象をもち、出題範囲、試験方法や採点(評価)基準が異なっており、武道の諸流派に準えることができましょう。言葉は人間の社会・生活・文化の全ての側面を写す鏡であり、人間生活の各局面において固有の言い回しや用語、作法ができているのは当然です。それなりの勉強・訓練なしには技術英語・商業英語・法律英語といった専門的な分野では通じません。これは、ただ日本人であるというだけで、日本語でマニュアルが書けたり契約書を作成できたりするわけではないのと同じことです。

 

英検やTOEICだけが英語ではありません。例えばTOEICは聞き取り、文法、読解といった、受信型能力しか測定しない、いわば偏った尺度です(もっとも、2007年初めから、TOEIC スピーキングテスト/ライティングテストが、従来の標準型 TOEIC とは独立して受けられる検定試験として導入された)。英検や TOEIC といった学校英語や一般英語の試験で高い点をとっても、そのままでは実務に役立ちません。実社会では実務で通用するより広い実力を身につける必要があります。その意味で、道場破りに心掛けてもらいたいと思います。失敗しても死ぬことはありません、精々受験料を失うだけです。一方、勉強を通じてそれなりの実力向上は見込めるのです。

 

7. クロコダイル・ダンディの精神(one-upmanship)

 

1980年半ば頃、「クロコダイル・ダンディ」という映画がヒットしたのを覚えておられる方も多いと思います。飄々としたオーストラリアの伊達男ミックが、米国人女性ジャーナリストに誘われて訪れた生き馬の目を抜くニューヨークで繰り広げる、意表を衝いた武勇伝でした。その中で、ミックが与太者を退散させる面白いシーンがあります。

 

与太者:(刃渡り15センチ位のジャックナイフを振りかざして脅す)

ミック:(慌てず騒がず)”What is it?”

与太者:(拍子抜けの態で)”A knife!”

ミック:(徐に懐から刃渡り40センチ位の馬鹿でかいナイフをギラリと抜き放ち)

“This is a knife!”

与太者:(度肝を抜かれて退散)

 

(因みに、これはイントネーションの良い勉強になります。)

 

ゲーム・スポーツ試合・格闘技・喧嘩等、凡そどのような勝負においても、相手の動きに対して、自分の方が大きい/良い/強いことを示すことが肝要です。そういうこちらの反応に対してまた相手が上手を行こうとして反応する。またそれに対抗してこちらが更に上を行こうとして反応する...。このようにして反応が反応を呼んでエスカレートする様を “one-upmanship” と言います。”One-upmanship” こそがあらゆる勝負の公約数と言えましょう。「クロコダイル・ダンディ」のこの場面は、まさに “one-upmanship” の典型を見せてくれました。

 

言葉は、日本語でも英語でも中国語でも、人間の生活・歴史・文化・文明と密接に結びついており、無限に近い拡がりと奥行きをもっています。したがって、学校の試験と違って満点ということがありません。裏を返すと、物差しは一つではなく、ある分野での言葉(外国語)をマスターしたと思っても、それが他の分野/局面では通用しないことがあります。上には上があるということです。英検1級を取ったらそこで止まるのではなく、国連英検、日商ビジネス英検、TEP検定、TOPEC、BULATS、さらには各種の翻訳検定等、更に色々な検定に挑戦してみましょう。一冠王よりは三冠王、三冠王よりは五冠王の方が、広い実力を身につけた証明としてより説得力があるのです。

 

8.  地雷原突破の精神(罠を見極める眼力)

 

日本は幸いにして長く続いた平和のおかげで、また島国という事情もあって、地雷にはほとんど縁がありませんが、世界のあちこちにはまだたくさんの地雷が埋まっています。筆者ははからずも、地雷原(といっても、地雷原の中に安全に作られている道路)を歩いて踏破する、という貴重な経験をしたことがあります。1972年12月に旧西ドイツの国境の町ベープラ(Bebra)から旧東ドイツのエアフルト(Erfurt)県に入りましたが、西側・東側各々に検問所と監視塔があり、その間が幅約1キロメートルの無人の原っぱ、その中に両検問所を結ぶ道路が通っていました。鉄道はベープラ止まりです。こちらは車もなく、重いスーツケースを手に1キロの道をトボトボと歩くしかありません(当時はスーツケースにキャスターなどついていませんでした)。国境ですから当然、通りがかりの車に乗せてもらうこともできません。西側検問所では「道路の両側に地雷が埋まっているので、ヘンな気持ちを起こさないように」という忠告を受けました。

 

筆者はたくさんの試験、特に英語の資格試験を受けてきた経験から、試験問題というのは、あちこちに地雷が埋め込んである地雷原である、という思いに至りました。試験に合格するということは、地雷を踏まないようにあるいは地雷を1個ずつ撤去しながら、無傷で目的地に到達することになぞらえることができます。出題者は当然、受験者の能力不足をあばき出すことを使命としていますので、「ここは仮定法過去です」などというヒントは与えてくれません。受験者は、自分が学んできた語彙や文法・構文の知識、さらには専門分野の知識を総動員して地雷を検知し、それを踏まないよう進んで行くしかありません。このように、語彙・文法・構文の知識を、あやふやではなく確実に身につけることが、さまざまな試験で高得点をとる必須条件なのです。

 

 

9.満点をめざす精神(完璧主義)

 

語学に限らず「良い」試験の一つの条件は、成績が低い得点から高い得点にまんべんなく分布(正規分布が理想)している、言い換えると能力が容易にまた客観的に弁別できることです。成績は得点という形で数値化され、この数値によって、合格/不合格または級分け(1, 2, 3級等)が決められます。語学の試験では、対象となる分野・範囲内で無限とも言える様々な語彙・文法項目・構文パターンや状況の組み合わせの中から、有限の時間でこなせる有限の数の問題に絞って出題されます。受験者は、どのような問題が出題されるか分からないので、どんな問題でも高得点をとれるように、元の無限とも言える語彙・文法項目や構文パターンのすべて(可能な限り)に対処できるよう準備することになります。孫子の兵法で説かれているように、「敵を知り己を知らば百戦危うからず」であり、上級を狙うには当然、起こり得るすべての可能性に対応できるよう、一種の完璧主義的学習が必要になるのです。

 

人間には、どんなに完璧を期しても努力には限りがあり、また記憶力にも限界がありますので、常に完璧ということはあり得ません。その上、不注意、疲労、忘却、集中力不足等による間違い(エラー)がつきものです。満点をとった積もりでも実際の得点は 90点、80点ということは十分あり得ます。心理学の研究によると、人間のエラー率は 1/100 から 1/1,000 と言われています。また、人間が物事に集中して最善の結果を出せる状態は約15分が限度と言われ、それ以上連続して作業すると、エラー率は急速に(例えば1桁以上)上昇すると言われています。語学試験は 2 – 3 時間が多いので、当然、1/10 – 1/100 のエラー率を考慮に入れる必要があります。したがって、例えば下限が90点という最上級を獲得するためには、90点を目標にしていたのでは実際が81点-90点となり、目標到達はとうてい覚束ないでしょう。100点(満点)を目指して初めて、エラーがあっても 90点(最上級)を確保できることになるのです。これは、オリンピック金メダル級の一流運動選手(アスリート)の多くが完璧を狙って鍛錬していることにも通じることなのです。

 

 

10.スパイラル学習の精神(多様な試験に挑戦することにより、言葉を多角的・多層的に習得)

 

下図に示すように、語学のスキル(能力)は基本的に読む(リーディング)・書く(ライティング)・聞く(リスニング)・話す(スピーキング)の4つに分類されますが、これらは外から見える、すなわち試験などで直接測定できるものです。一方、これらの外面的能力は、文法・修辞・専門知識・文化・語彙等によって支えられています。つまり、文法・修辞・専門知識・文化・語彙を強化することにより、これらのスキルが着実に向上することになります。

既に何度も触れましたが、言葉が使われる分野や局面にしたがって、語彙や言い回し、スタイル、文化的背景、専門知識などが独自に進化し、独特な様相を呈します。例えば “consideration” という単語は一般的には「考慮」ですが、契約書では「約因」/「対価」の意味で使われます。社会に出れば学校英語と違った形で英語が使われていますので、分野ごとにさまざまな試験が実施されているのも当然です。一般英語(“general English”)だけではなく一歩外に出て、ビジネスや科学・技術などの目的別英語(“English for Specific Purposes”: ESP)の試験を多数受けることにより、言葉の多様な意味・用法に目を開かれことになり、英語をより多角的かつ多層的に理解できるようになります。またその過程で、語彙や文法、さらには背景(専門分野)の教材・参考書を何度も復習することになり、忘れていたことを思い出したり、あいまいだったことの理解を深めたりすることにもなります。これは、らせん階段(“spiral staircase”)を昇るのにたとえることができるでしょう。こうしたスパイラル学習によって言語の習得がより確かなものになるのです(下図参照)。

注)図は、筆者著『ビジネスパーソンのための英語超効率勉強法』(日本実業出版社刊)pp.62-63 より転載

<本記事は、平井通宏著「ビジネスパーソンのための英語超効率勉強法」(日本実業出版社、2002年9月)の終章を加筆・修正し、出版社のご諒解を得てここに再掲するものです。>