英語資格取得の七精神

英語資格取得の七精神

 

© Michihiro Hirai  1998 - 2010

 

1.登山家の精神 (「そこに山があるからだ」- George Mallory)

2.コロンブスの精神 (西へ、西へ)

3.「ヤッタルデ!」の精神(金(かね)やんの精神 ) (プロ意識)

4.こだわりの精神 (「こだわりのレミー」)

5.ニューラル・ネットワークの精神 (反復練習)

6.道場破りの精神 (諸流派武者修行)

7.クロコダイル・ダンディの精神 (one-upmanship)

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1.登山家の精神 (「そこに山があるからだ」- George Mallory)

 

最近中高年の登山熱が盛んですが、一般に、何か目標を定めてそれに向かって邁進することは、山登りになぞらえることができるでしょう。語学の勉強も、ただ漫然とやるのではなく、短期なり長期なりの目標(例えば、次回の英検で準1級を取得しよう等)を作ってメリハリをつけた方が効果的であり、励みにもなると思います。この場合、自分の実力に合った目標を選ぶこと、目標の内容をよく把握する(例えば過去の試験問題を調べる)こと、そしてそのための準備を整えることが肝要です。

 

現在、日本で実施されている英語系資格試験は約50種以上もあります。語学能力と一口に言っても実際は、文法・語彙・読解・聴解・会話・発表・作文等の多数の要素が絡み合っており、また言葉を使用する場も、日常生活・旅行・学校・職場の日常業務・社交・ビジネス交渉・売込み・購買・通信・論文作成・マニュアル作成等々多岐にわたっていて、この両軸(能力と場)の組合せに対応して各種資格試験が存在しているわけです。この中で、実用英語検定(通称「英検」)の1級試験は、学校英語の総仕上げといった性格をもち、まずはこれを征服することが、他の資格試験(その中でも最上級)受験の要件と言えましょう。英検1級に合格しないようでは、他の資格試験の最上級(例えば国連英検特A級、STEP BULATSテストレベル5)の合格もおぼつかないでしょう。その意味で英検1級は、ヒマラヤ登山で言えばベースキャンプと位置づけられます。

 

イギリスの高名な登山家 George Mallory 卿は、「あなたはなぜ、エベレストに登るのですか」と聞かれて、「そこにそれ(エベレスト)があるからです」と答えたそうです。「あそこにこういう資格試験がある」と聞いて、「取得したい!」という気持ちを起こすことからすべてが始まります。また、各種の資格試験を制覇することによって、幅広い実力が身につくのです。皆さん、登山家の精神で頑張りましょう。

 

2.コロンブスの精神 (西へ、西へ)

 

1492年8月、コロンブスはスペインのパロス港(ウェルバ)を出発して一路西へ西へと進み、アメリカ大陸を発見しました。ただしもともとの目的は、新大陸の発見ではなく、地球が丸いことを証明することにあったようです。球体なら、その表面を一つの方向に進めば元の場所に戻るはずであるというわけです。当時大西洋の彼方は[欧州人にとっては]まったく未知の世界であり、それをちっぽけな木造帆船とローテクな航海術で乗り切るのは、想像を絶する冒険であったに違いありません。そこにあったのは、ただひたすら西へ進むという「1ビット」の情報と、どんな困難をも克服するという不屈の精神でした。

 

語学に限らず何か資格を取得したいと思ったら、まさにこの精神が肝要です。受けようか受けまいかとウジウジしていないで、先ず受験を申し込みましょう。申し込むことによって、後に引けないという状況に自らを追い込んでしまうのです。電子計算機の用語を使えば、「外部クロック」をセットしてしまうと言えましょう(内部クロックだけだと、ついつい自分に甘くなってだらけてしまいます)。いったん申し込んだら、「受験料を無駄にしない」、「これから自分が勉強に割くエネルギーを無駄にしない」という意気込みで目標に向かって邁進する。そのためには、好きなゴルフやカラオケの回数を減らし、もろもろの誘惑を断ち切って、試験準備を最優先にする。一つの目標(試験に合格するという「1ビット」)に向かってエネルギーを集中することが成功の秘訣です(それにしてもコロンブスの時代に比べると現代は、精神の集中を妨げる誘惑が多いですね)。そして、語学の場合は、一つの試験に失敗しても勉強しただけの効果はどこかに残るものです。

 

3.「ヤッタルデ!」の精神(金やんの精神 ) (プロ意識)

 

「ヤッタルデ!」の精神とは、一言でいえばプロ意識ということで、金(かね)やんこと金田正一元国鉄(現ヤクルト)投手の口癖からとったものです。1958年のセ・リーグの開幕戦で金田投手は、鳴り物入りで巨人に入団したばかりの長嶋選手を、4打席連続三振に仕留めました。金田はその前年迄に7年連続20勝している天才投手、「六大学といったって、しょせんはアマチュアじゃないか。俺はプロだ。プロがアマに負けてなるものか。今日はプロの実力を見せてやったんだ。」という趣旨のことを言いました。これぞプロの鑑です。

 

皆さん、会社に入って5年も6年も一つのことをしていれば、その道のプロでなければなりません。社員全員がプロになってこそ、会社が成り立つのです。語学もしかり、日常業務で外国語に触れている人は、アマとは違う実力を養うべく邁進しましょう。そして実力の証明となる各種資格試験に挑戦しましょう。

 

4.こだわりの精神 (「こだわりのレミー」)

 

長旅のつれづれに手にとる国際線の機内誌。ビジネスパーソン向け記事や一般旅行者向け紀行文に混じって目を楽しませてくれるのが、趣向を凝らした広告です。「こだわりのレミー」。この一言で読者を、コニャックの名品レミー・マルタン® へと誘ってくれます。いささか個人的嗜好の話になり恐縮ですが、銘酒のみならずフランスの食卓は、フォアグラにしろセルベラ・トリュフにしろ、美食家(gourmet)をうならせる逸品料理に満ちています。フランス人が世界に冠たる料理を作れるのは、彼らが味にこだわるからです。その点、日本人も共通するものをもっています。改良に改良を重ねて美味しい米を創り出す。こだわりにこだわって良いものを追求する。まさにこのことが、他に抜きんでて一流になる原動力と言えましょう。

 

外国語の学習にも同じことが言えます。幾つかの似たような表現の使い分けを知らないと、実社会で失敗することがあります。例えば、顧客から何か頼まれて、(a) "We will do everything we can." と言うのと、(b) "We will do our best."と応えるのでは、相当な違いがあります。(a) は単に、努力してみます(結果は保証しません)というだけですが、(b) は約束に近くなります。また会話の最中、相手の言うことに相槌を打つのに、(a) "I see what you mean." と (b) "I understand what you mean." では、微妙な差異があります。(a) は単に、言語的に(又は論理として)わかりましたというだけですが、(b) には、貴方に同意(又は同情)しますというニュアンスが加わります。デートの相手に、"I see." "I see." の連発では、「なんだか打ち解けない人」という印象を与えることになるかも。これからは大いにこだわって、"違いのわかる男(女)"になりましょう。     

 

5.ニューラル・ネットワークの精神 (反復練習)

 

地上ディジタル放送、パソコンそれに MP3 と、ディジタルな形の情報処理を行うシステムが世の中を席捲しています。しかし、ディジタルが万能ではありません。何億年も前から、一部の原始動物を除く全ての動物は神経回路(ニューラル・ネットワーク)をもち、生きるのに必要な情報処理をしてきました。食べ物や仲間を認識する・獲物に向かって走る・敵から逃げるといったパターン認識や物理的運動は、全て神経回路があって可能でした。

 

神経回路の最大の特徴は、自己学習能力です。各々の神経細胞は、細胞体の周りの樹状突起で他の神経細胞からの電気信号を受信し、軸策という長い手の先端(シナプス)から他の神経細胞へ電気信号を送信します。非常に単純化して言うと、シナプス-樹状突起間の結合の度合いは信号が通る度に強くなって、それ以後ますます信号が通りやすくなるという性質があります。何度も見た顔は瞬時に誰だか判るようになる、あるいは何度も練習すると正確で速いパスを送れるようになるといった、パターン認識能力あるいは運動能力の向上(自己学習)は、まさにこの性質のおかげです。漫画的に言うと、知っている人の数だけ、また、練習したスポーツの種類だけ、自分の頭や身体の中に神経回路ができるということです。

 

この反復練習の原理はそのまま語学の習得にもあてはまります。テレビでは同じコマーシャルがくり返されるので、学齢に満たない幼児でも、最初の画面がチラと出ただけで次に来るセリフを言うことが出来ます。同様に、同じ文章を何度も繰り返し聞かされればいやでも頭に入りますし、同じ文章をくり返し喋っていれば、それが自然に(大脳の深部を使わず、意識にものぼらないような浅い所で)口をついて出るようになります。特にリスニングやスピーキングではこの効果は顕著です。リスニングやスピーキングで問題になるのは、アイディア(伝えられる情報/想念)と表現(単語、イディオム等)の間の対応(マッピング)をいかに速くかつ正確にとるかということです。例えば、「どこかで聞いたことがあるなあ」というアイディア(想念)と "This sounds familiar to me." という英語での表現をつなぐ神経回路ができてしまえば、聴解(表現 → アイディア)もスピーキング(アイディア → 表現)も格段に速く正確になります。

 

会話能力の習得の点では、市販のオーディオ教材を丸暗記するのが、最も投資効果が高いと言えます。筆者は自らそれを実証しました。筆者は入社間もない頃、毎日起床後自宅を出るまでの間、リンガフォン® のドイツ語教材テープを1文聞いてはすぐ巻き戻し、また同じ文を聞く、家を出たらそれを口に出して言ってみる、間違っていたり自信がなかったりしたら帰宅してから聞き直す、間違いなく言えるようになったら次の文に進む、という単純至極なことを尺取虫のようにくり返し、9ヵ月かけて丸暗記しました。以来40年たった今(2010年)でも、忘れないように、3週間に 1度歩きながら全50課を暗唱することをくり返しています(これまさにDRAM-リフレッシュ型記憶素子-の原理)。おかげで、今でもドイツ語圏に旅行すると、日常会話はほとんどすべてドイツ語で済ますことが出来ます。

 

どうですか、一念発起して幼児に戻り、耳からくり返し学習するのは。今なら、ウォ-クマン® や iPod® 等の携帯音楽プレーヤ(アナログ、ディジタルを問わず)なる文明の利器がありますので、40年前よりははるかに便利になっています。頭の中にいつの間にか外国語の神経回路が出来てくるでしょう。石のように固い意思を以ってすれば道は開けるのです(Where there is a will, there is a way.)。

 

6.道場破りの精神 (諸流派武者修行)

 

中世の武芸者は、ある程度修行を積むと道場を出て、諸国を巡りさらに腕を磨きました。剣の道には、北辰一刀流、神道無念流、二天一流(宮本武蔵)等々、おのおの特徴をもったたくさんの流派があり、ある一つの流派の奥義を極めたとしても、それでそのまま他の流派の剣豪を倒せるとは限りません。その流派の長所弱点を研究し、どうすれば破れるか戦法を練る必要があります。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」(孫子)と言います。そうやって他流の道場の門をたたき、師範に試合を申し込む。負ければ大けがをしたり命を落としたりしかねません。そのかわり勝てば気分爽快、看板を引っ剥がして意気揚々と引き揚げる。まさに弱肉強食、道場破りの世界です。

 

現在日本で英語の能力(資格)検定がたとえば英検(実用英語検定)、国連英検、ケンブリッジ英検、IELTS、オックスフォード英検、TOEIC®、TOEFL®、日商ビジネス英検、工業英検、TEP、TOPEC、通訳案内業、STEP BULATS等、約50種類(公開受験可能なもの。ただし、児童英検等の受験対象が最初から低いレベルを想定しているものを除く)以上実施されています。これらの検定は各々独自の目的と対象をもち、出題範囲や試験方法が異なっており、武道の諸流派に準えることができましょう。言葉は人間の社会・生活・文化のすべての側面を写す鏡であり、人間生活の各局面において固有の言い回しや用語、作法ができているのは当然です。それなりの勉強・訓練なしには技術英語・商業英語・法律英語といった専門的な分野では通じません。これは、ただ日本人であるというだけで、日本語でマニュアルが書けたり契約書を作成できたりするわけではないのと同じことです。

 

英検やTOEICだけが英語ではありません。たとえばTOEICは聞き取り、文法、読解といった、受信型能力しか測定しない、いわば偏った尺度です(もっとも、2007年初めから、TOEIC スピーキングテスト/ライティングテストが、従来の標準型 TOEIC とは独立して受けられる検定試験として導入されてはいますが)。TOEICや英検で高い点をとっても、そのままでは実社会に役立ちません。これからは、より広い実力を身につける必要があります。その意味で、道場破りに心がけてもらいたいと思います。失敗しても死ぬことはありません、せいぜい受験料を失うだけです。一方、勉強を通じてそれなりの実力向上は見込めるのです。

 

7.クロコダイル・ダンディの精神 (one-upmanship)

 

1980年半ば頃「クロコダイル・ダンディ」という映画がヒットしたのを覚えておられる方も多いと思います。飄々としたオーストラリアの伊達男ミックが、米国人女性ジャーナリストに誘われて訪れた生き馬の目を抜くニューヨークでくり広げる、意表を衝いた武勇伝でした。その中で、ミックが与太者を退散させる面白いシーンがあります。

 

与太者:(刃渡り15センチ位のジャックナイフを振りかざして脅す)

ミック:(慌てず騒がず)"What is it?"

与太者:(拍子抜けの態で)"A knife!"

ミック:(おもむろに懐から刃渡り40センチ位のバカでかいナイフをギラリと抜き放ち)"This is a knife!"

与太者:(度肝を抜かれて退散)

 

<ちなみみに、これはイントネーションの良い勉強になります>

 

ゲーム・スポーツ試合・格闘技・喧嘩等、およそどのような勝負においても、相手の動きに対して、自分の方が大きい/良い/強いことを示すことが肝要です。そういうこちらの反応に対してまた相手が上手を行こうとして反応する。またそれに対抗してこちらが更に上を行こうとして反応する。このようにして反応が反応を呼んでエスカレートする様を "one-upmanship" と言います。"One-upmanship" こそ、あらゆる勝負の公約数と言えましょう。「クロコダイル・ダンディ」のこの場面は、まさに "one-upmanship" の典型を見せてくれました。

 

言葉は、日本語でも英語でも中国語でも、人間の生活・歴史・文化・文明と密接に結びついており、無限に近い拡がりと奥行きをもっています。したがって、学校の試験と違って満点ということがありません。裏を返すと、物差しは一つではなく、ある分野での言葉(外国語)をマスターしたと思っても、それが他の分野/局面では通用しないことがあります。上には上があるということです。英検1級を取ったらそこで止まるのではなく、国連英検、日商ビジネス英検、TEP テスト、TOPEC、STEP BULATS等、さらにいろいろな検定に挑戦してみましょう。一冠王よりは三冠王、三冠王よりは五冠王の方が、広い実力を身につけた証明としてより説得力があるのです。

 

<本記事は、平井通宏著「ビジネスパーソンのための英語超効率勉強法」(日本実業出版社、2002年9月)の終章を加筆・修正し、出版社のご諒解を得てここに再掲するものです。>